catch-img

スポット溶接の条件を完全マスター!品質と効率を両立する最適設定

歩留まりがなかなか改善せず、生産効率まで落ちてしまう―。そのような現場では、スポット溶接の設定値が「とりあえずの目安」のまま固定されていることが少なくありません。

電流や加圧等を、少し微調整するだけで、スパッタが増え安定した溶接条件が出せない。

こうした悪循環を断ち切り、安定した強度を保ち生産するためには、「三大条件」を最適化することが重要です。本記事では、その具体的な方法を解説します。

スポット溶接の基本を理解する

ここではスポット溶接(抵抗溶接)の仕組みを基礎に、三大条件と呼ばれる『溶接電流・通電時間・加圧力』の相互作用を整理し、ナゲット形成までの一連の流れを体系的に捉えられるよう解説します。

スポット溶接とは何か?

「スポット溶接」とは、金属を接合する技術の一つで、金属板を電極で挟み込み、大電流を流して局部的に熱を発生させ、溶融・接合する方法です。この溶接技術について、さらに詳しく知りたい方は、以下の記事をご参照ください。

スポット溶接の三大条件

スポット溶接(抵抗溶接)の三大条件は『溶接電流(I)』『通電時間(t)』『加圧力(F)』です。
これらの条件が発生する熱の強さや広がり方を決め、その結果ナゲットの大きさや溶込の状態が決まります。
いずれか
1つでも適正範囲を外すと、スパッタ増大・未溶融・剥離といった不良が発生します。

溶接電流の設定方法

〈電流値の目安と計算方法〉
板厚ごとの電流の目安を知るには、「
I=k×t^0.5」(I: 電流、k: 係数、t: 板厚)という計算式がよく使用されます。
この計算式は、溶接ワークの板厚が変わっても必要な電流を急激に上げないよう溶接機の能力や電極の寿命を考慮した、実用的な方法として有効です。

〈過電流のリスクと適切な設定方法〉
電流が強すぎるとスパッタ(金属の飛び散り)が発生し、溶けた金属が電極に付着して電極の寿命を縮めてしまいます。適正な電流値を決めるには、電流を少しずつ上げながらナゲット径とスパッタ量を確認する方法が有効です。
JIS規格で定められた最小ナゲット径を満たす電流値に、さらに1kAを加えた値を上限とすることで、過電流による不良を防ぐことができます。


加圧力の調整ポイント

加圧力が不足すると、スパッタが増えて表面が焼けやすくなります。
逆に加圧力が強すぎると、接触抵抗が下がって熱量が減り、必要なナゲット径・必要な溶込みが十分になく溶接強度が安定しません。
破面を観察したとき、「外周が青く焼け、中心が溶けていない二重の輪」が見える場合は、加圧過多のサインです。

さらに注意すべきは、設定値と実際の加圧力が必ずしも一致しない点です。エアーガンやサーボガンでは、設定5.0Nとしても実際には4.5Nしか加圧がかかっていないケースがあります。加圧計にて加圧力を測定・記録し実測値をフィードバックすることで条件が整います。


通電時間の重要性

通電時間を設定する際には、静岡県の富士川を境に周波数の注意が必要です。
東の
50Hz地域では1サイクルの時間が長いため、西の60Hz地域の設定値に対して「×1.2」で換算すると簡単に算出が可能です。

通電時間を短くするとスパッタの減少やサイクルタイム短縮につながりますが、芯ずれや板厚差があると未溶融のリスクが増すため、適正範囲を守ることが重要です。その目安として以下の3点を確認してください。

  1. ナゲット径がJIS下限+0.5mm以上ある

  2. スパッタ付着量が許容範囲内である

  3. 電極温度が上昇傾向に入っていない

条件を見直す際は、「電流 → 加圧力 → 通電時間」の順で、最後に通電時間で微調整すると、迷いなく適正条件に近づけます。

スポット溶接のナゲット形成

ナゲットはスポット溶接における品質判定の核心です。三大条件が適正でも、ナゲット径・形状・内部組織が規格値を満たさなければ溶接強度は成り立ちません。ここからは、ナゲットについて、「どうやってできるのか」「どのように調べるのか」を具体的に説明します。

ナゲットの定義と役割

ナゲットとは、スポット溶接にて金属が溶けて固まり、溶接ワークをしっかりつなぎ合わせる部分のことです。
これは溶接された部分の強度を支える最も重要な部分であり、適切に形成されると、元の金属よりも硬く、強い接合部が形成されます。
溶接の品質を確認するため、日本の工業規格(
JIS)などでは、ナゲットの大きさ(直径)や、溶接ワークを剥離したときのナゲットの形(破面形状)について基準が定められています。


ナゲット径に影響する要素

ナゲット径は板厚、電極先端径、電流、加圧力、通電時間といった複数要因で決まります。長期運用では電極摩耗による先端径拡大が避けられません。定期的なドレッシングや電流自動追従機能(定電流機能)を組み合わせることで、ナゲット径のばらつきを抑えられます。

【材質による違いの例】

・アルミ:高熱伝導のため電流を増やしても熱が拡散しやすく、通電時間を長めに取る傾向がある。
・高張力鋼:発熱しやすく、電流を上げすぎると爆飛が発生しやすいので加圧力調整がカギになる。

溶接条件の設定と最適化

スポット溶接では、材料の特性や板厚に合わせた条件設定が欠かせません。
条件表を参考に基準値を定め、材質・先端形状を正しく選ぶことで、安定した品質と効率的な生産が実現できます。

スポット溶接の条件表を活用する

溶接の条件表は、板厚や種類に合わせて『はじめに試すべきおおよその設定値』を示してくれます。

RWMAの推奨条件とは?

米国抵抗溶接機製造者協会(RWMA)が発行する推奨条件表は、多くのメーカーが最初に参照する一般的な条件例です。

表の縦列には板厚、横軸には溶接電流・通電サイクル・電極加圧力が示されており、試作段階ではこの中等条件(Bクラス)をスタート値に設定することで大きな手戻りを防げます。電源がインバータ式か単相交流式かによっても熱投入効率が異なるため、同じ電流値でも結果が変わる点に注意してください。



(㎜)

電極






(㎜)






(㎜)

最良条件(Aクラス)

中等条件(Bクラス)

普通条件(Cクラス)

m
a
x
(㎜)

m
i
n
(㎜)



(サイクル)




(kgf)



(A)



(サイクル)




(kgf)



(A)



(サイクル)




(kgf)



(A)

0.4

3.2

12

8

10

4

120

5400

8

75

4400

20

40

3500

0.5

3.5

12

9

11

5

135

6000

10

90

5000

23

45

3900

0.6

4.0

12

10

11

6

150

6600

12

100

5500

26

50

4300

0.8

4.5

12

12

11

8

175

8000

16

120

6400

32

70

5000

1.0

5.0

12

18

12

10

220

9000

20

150

7200

36

85

5600

1.2

5.5

12

20

14

12

275

10000

23

175

8000

42

100

6100

1.4

6.0

12

24

15

14

320

10800

26

200

8600

46

120

6600

1.6

6.3

13

27

16

16

370

11600

30

230

9200

52

135

7100

1.8

6.7

16

31

17

18

430

12500

33

260

9800

54

155

7600

2.0

7.0

16

35

18

20

480

13200

38

300

10400

60

175

8000

2.3

7.6

16

40

20

24

570

14400

43

330

11000

65

200

8600

2.8

8.5

16

45

21

28

700

16000

52

430

12400

76

230

9500

3.2

9.0

16

50

22

32

820

17400

60

480

13200

84

285

10200

溶接材と電極の選定

材料特性・電極材質・先端形状という3つの視点から、条件設定を根本的に支える選定基準を整理します。

金属の種類と特性

アルミ:高熱伝導で冷えやすいため、電流増大に加えて通電時間も細かく詳細に設定
銅  :低抵抗でスパッタが少ないが、加圧力が不足するとスパッタが起きやすい
チタン:活性表面を持ち酸化皮膜が厚くなると通電が阻害されるため、高加圧+不活性雰囲気の併用が必要


電極材質の選び方

RWMAの電極材質クラスは導電率と硬度のバランスで整理されています。
表面硬度が高いほど電極摩耗は遅くなりますが、導電率低下に伴い発熱が増えるため冷却設計を強化しなければ溶接品質を保つことができません。

【電極の選定例】
高張力鋼:電極摩耗が速いため高度優先で選定
アルミ :発熱不足が問題になりやすいため伝導率優先で選定(ラジアス形が一般的)


電極チップ先端形状の種類について

「形式」:呼称   電極チップの形式や呼称はメーカーによって様々です。

「F」:フラット形

フラットで溶接ワークに打痕を極力残さない形状

「R」:ラジアス形

緩やかなドームで溶接面が通電に合わせて母材に食い込んでいく形状

「D」:ドーム形

ラジアスに比べ鋭角なドームで接触面積が小さく電流集中性に優れる形状

「CF」:円すい台形

円すい形の先端で溶接面がフラット形状

「CR」:円すい台形ラジアス

円すい形の先端で溶接面が緩やかなドーム形状

「E」:偏芯型

溶接ワークの際など、奥ぎりぎりに打ちたい時、接近性を高められる形状

「P」:ポイント形

溶接部のスペースが狭いところによく用いられる形状

スイベルチップ

あたり面がフラットで首がスムーズに動きワークになじむ形状

まとめ

本記事では、スポット溶接の条件設定について以下の内容を解説しました。

・スポット溶接の三大条件
・スポット溶接のナゲットについて
・溶接条件の最適化
・溶接材と電極の選定


\スポット溶接の条件設定や電極の選定、溶接機の選定でお困りの方はぜひ大同興業にご相談ください!/

産業機器部/部門長 坂野敏庸
産業機器部/部門長 坂野敏庸
入社33年。職長・安全衛生責任者の資格を持ち、現場と設備の両面からお客様をサポートしてきた営業担当です。 なかでも薄板に関わる抵抗溶接やスタッド溶接の知識には自信があり、条件・品質・生産性のバランスを見極めた技術提案を得意としています。現場の課題を正確に把握し、最適な方法を一緒に考える「相談しやすい営業」であることを心がけています。表面的な提案ではなく、根拠と実績に基づいた改善策をわかりやすくご提案し、信頼と納得をいただける対応を目指しています。